この記事は、循環器内科専門医の佐藤健一医師の監修に基づき作成しています。
【監修者】佐藤 健一(さとう けんいち)
循環器内科専門医 / スポーツドクター
日本循環器学会認定専門医。大学病院勤務を経て、現在は地域の中核病院で生活習慣病、特に血圧管理と運動療法の指導にあたる。アスリートのメディカルチェックも担当し、個々の身体特性に合わせた安全な運動プログラムの提案に定評がある。「運動を諦めるのではなく、ご自身の身体と対話し、安全に続ける方法を一緒に見つけましょう」という、患者に寄り添うパートナーとしての診療を信条としている。
同僚の方に「すごく良いよ!」と勧められたホットヨガ。デスクワークの肩こり解消やストレス発散に良さそうだし、会社の近くに新しいスタジオができたなら、なおさら興味が湧きますよね。
でも、「もともと低血圧気味で、立ちくらみしやすい体質だから、あの高温多湿のスタジオで倒れたりしないかな…」という不安が、体験レッスンへの一歩をためらわせているのではないでしょうか。
そのお悩み、そして慎重さ、専門家として「素晴らしい」と思います。この記事では、そんなあなたのためのものです。
この記事を最後まで読めば、
- なぜ低血圧の人がホットヨガで特に注意が必要なのか、その医学的な理由
- もし試す場合に、ご自身の安全を守るための具体的な対策
の両方が明確にわかります。漠然とした不安を、「自分で判断できる」という自信に変えるために、一緒に学んでいきましょう。
なぜ「低血圧の人は注意」と言われるの?高温環境が体に及ぼす3つの変化
「先生、ホットヨガを始めたいんですけど、血圧が低くても大丈夫でしょうか?」
私の外来でも、田中さんのように健康意識の高い方から、同じような質問をよく受けます。多くの方が、ホットヨガの持つたくさんのメリットに惹かれる一方で、ご自身の体質との相性に一抹の不安を感じていらっしゃるのですね。
なぜ、ホットヨガの環境が低血圧の方にとって特に注意が必要なのか。それは、あの独特の環境が、私たちの体に同時に3つの変化を引き起こすからです。難しい言葉は使いませんので、リラックスして聞いてください。
- 血管の拡張で、さらに血圧が下がりやすくなる
私たちの体は賢くできていて、暑い場所にいると、熱を外に逃がすために皮膚の近くの血管をグッと広げます。これにより血流がスムーズになり、体温が下がるのですが、血管が広がるということは、血液の通り道が広くなるということ。結果として、血圧は自然と下がり気味になります。 - 大量の汗で、血液がドロドロになる(脱水)
ホットヨガの最大の特徴は、滝のようにかく汗ですよね。この汗の正体は、もちろん体内の水分です。水分が失われると、血液全体の量が減り、少しドロドロの状態になります。これがホットヨガが脱水症状を引き起こしやすいと言われる理由です。心臓は、量の減った血液を全身に送るため、少し頑張らなくてはなりません。 - ヨガのポーズで、血圧が変動しやすくなる
ヨガには、深く前屈して頭を下げたり、座った状態からスッと立ち上がったりと、頭の位置が大きく変わるポーズが多く含まれます。このような姿勢の変化は、健康な人でも一時的に血圧の変動を引き起こします。
つまり、ホットヨガのスタジオは、低血圧の方が少し苦手とする「血管の拡張」「脱水」「急な姿勢変化」という3つの条件が、意図的に作られた環境なのです。これが、「低血圧の人は注意が必要」と言われる医学的な背景です。
【医師が解説】ホットヨガで立ちくらみ…その正体は「起立性低血圧」です

では、先ほどの3つの要因が重なった結果、具体的に何が起こるのでしょうか。田中さんが最も心配されている「立ちくらみ」の正体、それは「起立性低血圧」という名前のついた、明確な症状である可能性が高いです。
起立性低血圧とは、急に立ち上がった際に、脳への血流が一時的に不足し、めまいや立ちくらみ、ひどい時には失神を引き起こす状態を指します。
このメカニズムを理解するために、先ほどの脱水症状が起立性低血圧を誘発するという関係性に着目してみましょう。血液を水道管の中を流れる「水」だとイメージしてください。
ホットヨガで大量に汗をかくと、水道管の中の「水(血液)」の量が減ってしまいます。その状態で、座った姿勢から急に立ち上がると、重力に逆らって脳という高い場所へ水を送らなければなりません。しかし、水量が少ないため、十分な勢いで水を送り届けることができず、脳が一時的に酸欠状態になってしまうのです。
これが、ホットヨガ中に立ちくらみが起こるメカニズムです。つまり、あなたの不安は気のせいなどではなく、身体の中で起こる明確な生理現象に基づいているのです。しかし、メカニズムが分かれば、対策も立てられます。
もし試すならこれだけは守って!低血圧さんが安全に楽しむための5つのルール
ここからが、この記事で最も大切なポイントです。リスクを理解した上で、「それでも試してみたい」と感じる田中さんのために、専門家として「これだけは必ず守ってほしい」という5つの安全ルールをお伝えします。
ルール1:水分補給は「量」と「質」で。経口補水液がベストな理由
レッスン前・中・後で合計1.5〜2リットルを目安に水分を摂ることが推奨されますが、低血圧の方は何を飲むかが非常に重要です。汗と一緒には、水分だけでなく、血圧を維持するのに役立つナトリウムなどのミネラルも失われてしまいます。
そのため、ただの水やお茶だけを大量に飲むのではなく、失われたミネラルを効率的に補給できる経口補水液やスポーツドリンクを選んでください。起立性低血圧の対策として、経口補水液による水分とミネラルの補給が有効であることは、医学的にも推奨されています。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: レッスン30分前までに、スポーツドリンクをコップ1杯(約200ml)飲んでおくことを習慣にしましょう。
なぜなら、多くの人がレッスンが始まってから慌てて水分を摂りがちですが、それでは吸収が間に合わないことが多いのです。特に、レッスン前に食事を摂れなかった場合は、軽いエネルギーとミネラルを事前に補給しておくことが、パフォーマンスの維持と安全確保の両方につながります。この一手間が、あなたの初めてのホットヨガ体験を、格段に安全で快適なものにしてくれます。
ルール2:レッスン前後の食事は抜かない
空腹状態でレッスンを受けると、低血糖も相まって、めまいや倦怠感を引き起こしやすくなります。レッスン開始の2時間前までには、おにぎりやバナナなど、消化の良い炭水化物を中心に食事を済ませておきましょう。
ルール3:急な頭の上げ下げは避ける。危険なポーズと代替ポーズ
深い前屈(ウッターナーサナ)から急に起き上がる、ダウンドッグから頭を上げる、といった動作は、血圧の急変動を招きます。これらのポーズがプログラムに含まれている場合は、必ず膝を曲げ、頭が最後になるように、背骨を一つひとつ積み上げるような意識で、通常の3倍くらい時間をかけてゆっくりと起き上がりましょう。少しでも違和感があれば、すぐにそのポーズを中断し、楽な姿勢で休んでください。
ルール4:「頑張りすぎない」勇気を持つ
周りの人ができているからと、無理にポーズを深めたり、体調の違和感を無視したりするのは最も危険です。少しでも「クラっとする」「気分が悪い」と感じたら、それは体からの重要なサインです。すぐにチャイルドポーズになるか、スタジオの隅で座って休みましょう。レッスンを途中で抜けることを、誰も責めたりはしません。
ルール5:インストラクターへの「事前申告」というお守り
これが最も簡単で、最も効果的な安全対策かもしれません。体験レッスンを予約する際や、レッスンが始まる前に、必ずインストラクターに「低血圧気味で、立ちくらみを起こしやすいです」と伝えてください。プロのインストラクターであれば、あなたのことを気にかけてくれたり、無理のない代替ポーズを提案してくれたりするはずです。
これって大丈夫?ホットヨガと低血圧に関するFAQ
Q. 貧血と低血圧はどう違うのですか?
A. 良い質問ですね。混同されがちですが、全く別のものです。貧血は血液中のヘモグロビンが不足し、酸素を運ぶ能力が低下した状態を指します。一方、低血圧は血液を送り出す「圧力」が低い状態です。立ちくらみは両方で起こりえますが、原因が異なります。気になる方は、一度内科で血液検査を受けてみることをお勧めします。
Q. 慣れてきたら、毎日通っても問題ないですか?
A. 体調が安定しているなら問題ありませんが、低血圧の方は特に、その日の体調をよく観察してください。睡眠不足や疲労が溜まっている日は、症状が出やすくなることがあります。毎日通うことよりも、ご自身の体と相談しながら、無理のないペースで続けることが大切です。
Q. ホットヨガ以外で、低血圧におすすめの運動はありますか?
A. はい、あります。血圧の変動が緩やかで、下半身の筋肉を鍛えられる運動がおすすめです。筋肉は血液を心臓に戻すポンプの役割を果たすため、ウォーキングやスロージョギング、水泳などは非常に良い選択肢です。
まとめ:あなたの体はあなただけのもの。正しい知識で、自信をもって決断を。
改めて、この記事の要点を振り返ってみましょう。
- 低血圧の方がホットヨガで注意すべきなのは、「血管拡張・脱水・姿勢変化」の3つが重なるため。
- 立ちくらみの正体は、脳への血流が一時的に不足する「起立性低血圧」。
- ホットヨガのリスクは、5つの安全ルールで管理できます。
- 水分補給の「質」: 水だけでなくミネラルも摂る
- 食事のタイミング: 空腹状態を避ける
- 動作の「速度」: 急な姿勢変化はゆっくりと
- 「勇気ある」休息: 無理は禁物という意識
- 事前の「情報共有」: インストラクターを味方につける
大切なのは、ご自身の体としっかり対話することです。今日の情報が、田中さんが「やってみよう」あるいは「今はやめておこう」と、自信をもって一歩を踏み出すための、心強いお守りになれば、これほど嬉しいことはありません。
もし、立ちくらみが頻繁に起こるなど、少しでもこの記事を読んで不安が残る場合は、一人で悩まずに循環器内科などの専門医に相談してくださいね。あなたの健康的な毎日を、心から応援しています。
【参考文献リスト】
この記事は、以下の信頼できる情報源を参照して作成されています。
- 厚生労働省 e-ヘルスネット, 「熱中症を防ぐために」
- 独立行政法人国民生活センター, 「ホットヨガでの体調不良に注意」, 2018年7月19日
- 日本循環器学会, 「JCS不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン」
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